同名の漫画を映画化し、アカデミー賞の最優秀アニメーション作品賞を獲得した『この世界の片隅に』にエピソードを追加した拡大版。かなり長くなっているが、コンプリートというより、2作とも完成版という位置づけらしい。
漫画も短い方も観ずに鑑賞。
僕の好きな、グイグイと推進力のあるパターンではないが、ものすごく(それを割り引くと最高に)良かった。
昭和の初めに生まれた主人公が、広島から呉に嫁ぎ、戦時中を生き抜いていく話。
のん(元、能年玲奈)が声優を務めたすずは、子供のころからおっとりを通り越してちょっとトロく見える。芸術気質で絵がうまいがご多分に漏れず夢想気味。家の中で座敷童らしきものを見たり、バケモノに誘拐されるも背中の籠の中で知り合った男の子と脱出したり。
小学生時からガキ大将の水原哲が何くれとなく彼女に絡んでくる。怖い・・・でも、子供の頃に男子がやる、アレなのだ。
そんなすずも年頃になり、縁談が降って湧いてくる。
家へ向かうすずは水原とばったり。「お前縁談らしいな」「私は水原さんからかと」「あほ」のような会話があって、なんとなくすずの心が知れる。
求められるなら、くらいで北条周作に嫁ぐが、是非にと申し込んでくれた相手に見覚えはなかった。
呉の新しい家は、両親は穏やかなものの姉の径子の気性が激しい。結婚して女子を授かるも、やはりというか娘を連れて実家に帰ってきており、すずには辛く当たる。しかし姪の晴美とはすぐ仲良くなった。周作との夫婦生活も、何か少し物足りないが、それでも心が通っていくのがわかる。
そんな中、遊女のりんと偶然知り合い、呉で初めての同世代の友達となる。幼少時貧しかったと彼女が語るエピソードは、どこか子供の時に見た座敷童のようだった。そして、ある日、周作は遊女のりんに入れあげ、結婚を望んだために、親戚一同が大反対。りんを諦める条件としての周作の提案が「〇〇村の浦野すずを嫁に取れるなら」だったという経緯を知ってしまう。心が揺れるすず。
ある日、彼女が北条家に帰ると、水兵になった水原が家を訪ねて来ていた。
幼時からの親しさをおおらかに披露する水原。調子に乗るな、とすずが言い、馴染みならではの言い合いに発展する。陸に上がった水兵に宿を与えることが風習化されていたのだろう、水原は離れを借りて泊まることになる。「今夜はゆっくりと話しておいで」と送り出してくれた周作は、しかしドアの鍵を閉めてしまった。
・・・と、ここ。かなりビックリするところです。
えっ、旦那さん、奥さんを一夜の共に提供するの?と。しかしここからの物語が、僕には一番心に残りました。
一つの布団に座りながら話す二人。ついに身体を寄せ合って行く。しかし、すずは「水原さん、私はずっとこんな日を待っていた気がします。私は夫に本当に腹が立つ。でもごめんなさい」と言い、水原は「旦那さんが好きなんだな。ならいい」と答える(言葉は広島弁です)。
それまで、すずはずっとおっとりとした少女のようだった。しかし、夫への満たされぬ想いから水原の救出を心の底に待望し、同時に周作への愛も十分に深く育っている・・・という、女性として十分な成熟もしていたのでした。
水原もまた、望まぬ結婚からすずを救い出すべきか?とずっと思っていた。しかし、もう既にその必要を失っていたことを知り、爽やかに去って行く。
後日すずは、周作にこの日の礼を言った後、彼に詰め寄る。「でも、夫婦ってこういうものですか?」それは初めての大声を上げての夫婦げんかに。そこで周作が、意に沿う人がある中で自分が呉に連れて来てしまったのではないかという思いがずっとあったこと。そして、当日の水原とすずの様子に嫉妬してしまった上での行動であることが知れる。
どうですか?
僕、今泣いています(笑)
こんな恋の描写があるんだね。
それこそ、韓国映画との対立軸はまさにここにある、という感じ。この繊細な描写が、君たちにできてたまるかこんにゃろう!って。
逆に、迫力というかエンタメ力で勝てそうな気が全くしない。その反面!です。こういうちょっとでも場違いなエピソードを入れたら終わり、みたいな細い糸の上を外さずに歩くごとき繊細さ。世界でも日本人以外になかなかできないだろう。
悲惨な世相も、緩い笑いに包まれてやり過ごすが、空襲が本格化してからは一転に近い変化を見せる。
北条家周辺での数々の嘆かわしいエピソードにとどまらず、ついには姪の命と、美しい絵を描くすずの右腕が、地雷爆弾によって吹っ飛ぶ。目が覚めて右腕が半分無いことに気づいた彼女に、姉の径子は、「あなたがいながら晴美を死なせた」と激しく罵る。りんのいる遊郭は壊滅。そして、実家が広島であれば、来る6日の悲劇を免れはしないのだ。
終戦の日。最も穏やかだったはずのすずが、戦争への、日本への激しい憎悪に怒り狂う。こんなことのために、自分たちは辛抱してきたのか。今までのは言葉は全部嘘だったのか。
広島の実家に原爆症の妹を見舞った帰り、すずは荒れ地と化した広島の街で周作とばったり出会う。座っておにぎりを食べながら、妹さんのこともあるし広島に引っ越そうか、と提案する周作。その時、乞食然となった戦争孤児の女の子が寄り添ってくるのを無下にできず、一緒に船に乗って呉に連れ帰った。
しかし、呉の町は、もう明るさを取り戻しつつあった。あぁ、ここが、呉こそが自分たちの故郷なのだ、と改めて思う二人。虱だらけの孤児を連れ帰ったことに飽きれる家族たちの中、彼女のことを密かに、しかし最も喜んだのは他ならぬ径子であった。
奥の部屋でそっと晴美の服を出してみる径子。
女の子は北条家の新しい家族となり、晴美の服は直されて、その布地の一部は径子のポケットに縫い付けられる。さあ、新しい生活が始まったのだ。エンドロールが家族のその後をふっくらとした生活を表しながら流れていく。
僕もう、涙でぐしゃぐしゃです(笑)
いや、思わずレビューであらすじ書いてしまった。「あら」超えてるか?? ネタバレごめんなさい。
全体が緩いようでも、やはり反戦映画であり、終盤の描写は痛々しいくらい。でも、ここで素晴らしいのは、主人公をめぐるふたつの恋愛の話であり、径子たち家族の再生の物語だと思う。
こんな映画があることに感謝し、日本人として誇らしくすら思います。のんちゃんの力も改めて知ったし。
あっ、大事なエピソードを忘れていた。
広島の橋の上で、周作が「すずさんを初めに見たのはここだった」と告白するその背後。いつか見たバケモノが橋を渡っていき、二人にそっとグッドを合図して去って行きます。88点(観ている間の楽しさ70点台。観終わってからの余韻100点越え。)
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