『プラダを着た悪魔』でモデルになった、アメリカ版VOGUE誌のカリスマ編集長アナ・ウィンターが同誌史上で記録的なページ数となった2007年9月号を作り上げるドキュメンタリー。
・・・と思っていたが、実際には、アナの片腕ともいえる編集者グレイス・コディントンとのダブル主演とも言える内容だった。

とにかく、想定外のおもしろさ。”掘り出し物”と言ったら人気作に失礼だが、これほどとは、という思い。
アナは、『プラダ・・・』の編集長ミランダとは、被る部分もあるが、もっとひたすら雑誌の仕上がりに懸けている感じ。即断即決の見事さはプラダと同じだが、わがままというよりは徹底的に合理主義ゆえの愛想なしで、ミランダよりも明らかに魅力的と言いきってよいだろう。
そしてグレイス。アナとは同期で、片腕にしてライバルというか、丁々発止とやりあう仲。と言っても、立場的上下は完全に確立されていて、グレイスはただ作品で渡り合うだけなのだ。
5か月も前から(?)取り組んできた9月号編集も、入稿3週間前にはいよいよ掛かりっきりの状態になる。グレイスが担当した十数ページの特集は、しかし彼女の一押し写真はボツの憂き目に。(これは、グレイスのみならず、僕から見ても最高の1枚なのだが、それゆえに位相が一つ上というか、軽やかさに欠けて鬱陶しくもあるのは、やはりわかる写真だった)
そのうえ、表紙に実質決定している、女優シエナ・ミラーの写真が上がってくると、当初巻頭に予定されていたグレイスのものが、ずいぶんと後ろに追いやられる。「セレブ(女優)を表紙に持ってくると売れる。仕方がないが私は嫌い」と愚痴るグレイス。
さらに、これもグレイスが担当したカラーページ特集(カラフルなページなのだろう。ほかに生地のページなどもあり)が、なんと入稿5日前にボツ→撮り直しとなり、彼女のストレス=アナへの不満はピークとなる。
一方で、アナもまた多いに不満を感じていた。それは、カラーページの不出来以上に、シエナの写真にも全然納得できていなかったからだ。このあたりの機微もおもしろい。
最初、カメラマンはコロッセオも含めて撮影予定に入れていたが、美容師の付けたウィッグをアナのもうひとりの片腕編集者が”ありきたり”と嫌がって、ちょんまげシニヨンのような仕上がりになり、恐らく時間もひっ迫して、コロッセオの撮影が外れてしまう。
表紙こそ最優先と考えて、服の点数も減らして撮影したのだが、アナからすると、出来も服の点数の少なさも気に入らない。僕の立場からすると、「いやいや、カメラマンは悪くないよ」と思ってしまうのだが、アナの表情を見る限り、もう彼に仕事の依頼はない、という感じだった。
そしてカラーページ。ピンチヒッターのカメラマンはしかし、軽妙な仕事をする人で、独創的な写真が並び、アナを大いに満足させる。そしてその結果!!
なんと、伏兵のカラーページが巻頭特集となり、シエナは表紙以外は低い扱い。グレイスの最初の特集もしっかりと残されて、それを確認した彼女がカメラに向かい「私の特集号のようになったわね」と言い放つところが、全編中圧倒的なクライマックスとなったのだった。
87点
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