『キャバレー』は大人の映画 2023/8/31 By Leave a Comment 1972年のミュージカル。さすがにオーディオ・ヴィジュアル面で古めかしいことが惜しい。また、これという極まるシーンがないが、それでも尚かなり好きなタイプの映画である。 ゴッド・ファーザーと同年でありながら、賞レースでほぼ勝ったというのもうなずける。主演女優賞のライザ・ミネリ、助演男優賞のジョエル・グレイのパフォーマンスはそれに値すると言えるだろう。それにしても、作品賞と主演男優賞(マーロン・ブランド)は当然ゴッド・ファーザーに譲ったとして、監督賞でも本作のボブ・フォッシーがコッポラに勝ったとは! ミネリのサリーは、女優を夢見ながら場末のキャバレーで唄う歌手。父親は大使クラスの要人ということだが、それも怪しい。キットカットクラブでは毎晩きわどいショーが、圧倒的な支配力の座長(グレイ)と、例によってちょっと疲れたような踊り子たちと女性楽団員によって披露されているが、プロフェッショナルの芸でもある。 そんな中、ケンブリッジの院生であるインテリ・ブライアンが登場し、サリーと恋に落ちる。金持ち男爵が圧倒的な財力で割って入り奇妙な三角関係でアフリカに旅することに。妊娠が分かったものの、「多分ブライアンの子」としかわからないまま、ブライアンはサリーにプロポーズし、最高の幸せに包まれる。 しかし、ブライアンの思い悩む姿に、自分が子供を抱えてキャバレーで朽ちていく悲惨な将来しか思い描けなくなったサリーは堕胎を決行。彼になじられ、理由を求められた時の答えは「自分はわがまま。今でも女優になりたいから」という、半分以上嘘の言葉だった。 何が好きと言って、人生に対する認識そのものだ。 僕は20代の前半に2年半ほど水商売を(しかし本気で)やっていたが、こういう世界の女性やニューハーフと呼ばれていた人たちは、まさにこの通りだった。 普通の生活を夢見ながら、やはり夜の狂騒が好き。男に惚れやすく、計画を建てて生きられない。でも、お客を楽しませるプロとしての意識は強くて。 そんな中この世界に迷い込んだ、将来の夢も人生設計も建つ若者は、いわば30数年前の僕そのものではないか。異文化の者同士が接し、真実の部分で溶け合いながらも、一方で二人の将来が非現実であることにも気づいていて、やがて離れていく。 夜の街や、あるいは類似の世界で、古今東西溢れるくらいに起こってきた恋愛とその顛末を、半社会不適合者への愛溢れる視点で描ききったというそのこと自体が、大人の芸であり、名作たるゆえんと感じた。86点(この、ハラハラせずに観た上での86点は実際すごい!)
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