山中貞雄監督『人情紙風船』 2023/1/30 By Leave a Comment 1937年に公開された山中貞雄監督の遺作。日中戦争に赴いた同監督は実際1938年に戦病没。「紙風船が遺作とはチト、サビシイ」と書き残したらしい。 日本の古典映画の代表作として必ず名が挙がるもので、いつか観たいと思っていた。 まず、時代劇の形を取りながらも話し方や心の機微が全くの現代劇であることが斬新(であったはず)。次に、キラリと輝く場面がいくつかある。しかし3つ目に、やはりかなり古めかしいのは否めないところだ。 僕はこの監督の作品なら、はっきりと『丹下左膳余話 百萬両の壺』の方を採る。こちらはともかく楽しく明るく、そして優しい。初夏という雰囲気だ。 それに比べると本作は何とも寂しく、秋から冬枯れを感じさせる。公開年が2年遅く、時代背景の違いも左右しているのだろう。 しかし、ともに時代を2~30年超越しているんじゃないか、というモダンな作風なのは間違いない。これこそが、この監督の真骨頂なのだろう。黒澤のように、膨大な勉強量を裏付けとして周到に時代を先回りしていったのではなく、骨からのモダンな体質がスッとにじみ出たような作風。いわゆる天才の典型だ。 シーンやキャラでは、原作の歌舞伎では主人公である「髪結い新三」のパンクぶりがイケている。尖った生き方を選んで、最後は命を落とす。その背景にあるのは強烈な厭世感だろう。生きてるのもつまんないような世の中なら、カッコよく生きて適当に死ぬさ、と。 次にやはり、海野又十郎の悲哀が心に刺さった。恐らく腕が立つであろうこの浪人がいつキレるか、いつキレるか、と思って観ているが、実際には最後までキレない。憤懣を内に抱えたまま、飽くまで穏やかに、惨めに生きる。そりゃそうだろう。実際の人生ではほぼ皆そうだ。少年ジャンプの漫画とは違うのだ。この何とも言えない閉塞感も、時代の雰囲気だったかもしれない。今も同様だけれど。 全体的にはコメディタッチと言ってもよい軽妙感。セリフも人情も海野夫妻以外はカラッと現代的で、本来見やすい映画なのだろうが、映像や音声が古めかしすぎて、どうにも見づらい。それこそデジタルリマスターで大きく改善させられれば、またこの映画の価値を大きく取り戻せるだろう。65点
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