これも“感動枠”で観てみた。検索すると、「感動する映画」で毎度出てくるのが、『ショーシャンクの空に』、『ライフ・イズ・ビューティフル』とだいたいこれ。ほかちょっと毛色違うけどレオンくらいになる。
『ショーシャンク』がハズレ、『ライフイズ』が当たり、と来て、今回は・・・これも”ハズレ”。でも、ちょっとした”不幸”によるところが大きく、それがだいぶ変な話なので、以下、ぜひ読んでみてください(ただしネタバレ)。
雰囲気は悪くないです。
映画館「シネマ・パラダイス」映写室での、映写技師の中年男アルフレードとそこに入り浸る少年トトの友情がストーリーのメインで、舞台はイタリアのさびれた田舎村、時代は第2次大戦中から戦後にかけて。
二人は悪友同士のような関係であり、微笑ましいものだったが、火事を起こって映画館は消失。失神したアルフレードの命をトトが救ったことで、当然その関係は深化する。立て直した新館の名前こそ「ニュー・シネマ・パラダイス」。そして、トトはそのまま映画技師におさまるのだった。
美少女エレナとの恋は一旦かなったものの、エレナの引っ越しとトトの兵役で終わりを迎える。アルフレードに、「この村で自分のような人生を過ごしちゃだめだ。ここから離れて二度と戻ってきてはいけない。私ももう会うつもりはない」と言われて彼も旅立ち、ローマで映画監督として成功。中年期に至ったところで母親から連絡があり、アルフレードの死を知る。
30年ぶりに帰った村では、火事後に再興した映画館も6年前に閉館し廃屋と化していた。アルフレードの葬式に集まった故郷の人々にとってトトは仰ぎ見るほどの人物になっており、彼の旅立ちが成功に終わったことは疑うべくもない。そしてアルフレードから彼に残された遺品をローマに帰って見たトトは、アルフレードがずっと彼を愛してくれていたことを知り、涙を流すのだった。
ラストは感動的なはずなのだが、いまいちピンと来ない。命の恩人でもあるトトに、厳しく言ったようでも、それが愛ゆえなのは間違いなく、その遺品も、それを実証する範囲を超えはしないのだ。
エンリコ・モリオーネのノスタルジックな音楽に対し、演出は少しシュールであっさりとしており、くどくなりすぎていないのもいいのだけれど、感涙モノとはとても呼べず・・・。
ところが、この映画には、かなりイメージが違う”劇場版”と”完全版”があるようで、さらに僕が観たのは、劇場版に少し付け足したような、中途半端版?らしいことが、鑑賞後に発覚したのです。
つまり、長すぎる作品(完全版)を配給側が嫌って、大幅にカットしたのが劇場版で、僕が観たのもそれに近いと。そして、完全版の内容を検索して読んでしまったのだが、それがビックリの内容で!
トトを村から旅立たせたいアルフレードは、エレナにトトと別れてくれるように諭していた。さらには、兵役に出る前にトトとエレナは思い出の映画館での最後の逢瀬を約束していたが、約束の時間にエレナが現れないために探しに出かけてしまい、留守中にエレナがやってくる。しかし、アルフレードはトトへの言伝を断った上でもう会わないでくれと頼み、トトへもエレナは来ていないと嘘を付くのです。
アルフレードの葬式に故郷に帰った時に、エレナと再会を果たしたトトは、その事実を知ってアルフレードに憎しみを覚える。さらに、エレナとの愛を確かめ合うが、さすがに関係の修復はエレナから断られてしまう。
そしてローマに帰った後にアルフレードの遺品を見て、トトはアルフレードのあまりに大きな愛を知り、涙があふれ出す・・・という話に様変わりしてしまうのです!
劇場版はほぼ年齢差を超えた男二人の友情物語だが、完全版では友情と恋愛が五分五分の印象。さらにアルフレードの愛は大きく父性を帯びてくると言えるだろう。かなり様相が違う。
監督が完全版のまま上映したかったのは当然として、この短縮版をものすごく嫌がっていたらしい。
ネットのレビューでは、劇場版を勧める人が多い。そこで僕はというと、片方しか観ていないが、予想としては「断然完全版がよいのでは」と思う。
ここには人間の汚さがある。アルフレードは嘘を付くし、トトのエレナへの慕情は異常なくらい。エレナも夫をちょっと裏切る。でも、それでこそだよね!? 人間の汚い部分を除いてしまって、何に共感すればいいのか!?
最後の感動だって、いったんアルフレードに裏切られた気持ちになったからこそ深いのだろう。監督は米人でなく欧人である。こんな上っ面の話に限られては、やってられんだろう。
レビューにおもしろいのがあった。今は完全版のほうがよりよく思うとしたうえで、自らを「大人になったのね」と結んでいる。そういうことだろう。若い人は、上っ面をキレイにまとめた劇場版をより好むかもしれない。しかし、大人であれば、人間の汚い部分を描かれなければバカバカしく感じる。そうでない話にリアリティは薄いし、人間の汚い部分もまた愛おしく感じられるようになるからだ。
60点(ただし僕が観た短縮版の評価)
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