いま最も”感動的名作””泣ける”映画は?と検索すれば、必ず『ショーシャンクの空に』が最上位に入ってくる。平均してみればベスト1と言ってもいいくらい。つまり、一昔前の『ローマの休日』のような位置づけなんだね。もちろん評判は聞いていたが、未見でした。
十分におもしろい映画ではある。分類すれば「刑務所もの」。ヘビーなシーンも多いのに、主人公たちが明るくて、暗く沈んでしまわないところがいい。また、142分と、少し長い映画だが、エピソードが”それぞれ“良くて飽きさせない。脚本家や監督はよほどの手練れと言っていいだろう。
しかし、感動的、泣ける、という意味でははなはだ疑問だ。っつか、感動は刹那でもするから個々人の自由だが、「名作」ではない、ということは言い切れるかな。
見どころは①刑務所内での生活の厳格さ、暴力や、調達屋の仕事ぶり。②主人公の有能さと、刑務所内での成功。そして③終盤のドラマ・どんでん返しと言えるが、それら以上に世評の高いのが④主人公が常に希望を持ち、それに向かっていく姿、のよう。問題はここだ。(難解だったり、世評が自分と乖離しているときはネットのレビューとか見ます)
僕はそこに共感していない。主人公が切り出す「希望の話」は、僕にとってはむしろ”唐突”。その前半、彼は、教養や芸術、あるいは技能的豊かさがあり、それらから刑務所生活に生きがいを見出せているのだとずっと思っていた。ところが、「希望が必要だ」と言い出し、その内容は、その希望・夢は、南国で海を見ながらのんびり生活、みたいな、ちょっと陳腐なことだったりする。まあ、この年代(1995年公開)の流行りかもしれないけどね。
そのせいだろう、ポスターにもなっている感動的シーンもいまいち重さが伝わって来ないし、多くの人が評価するラストも、「あぁ、描いちゃうんだ」という感じ。作り手自らが、「余韻を残して映画史に残る傑作を狙うよりも、後味のよい佳作であることを選んだ」という風に受け取った。メインのトリックの無理や、前半は弱さもあった主人公の後半のスーパーマンぶりもそう。とても大傑作を作ろうと本気で詰めてきたようには見えない。と言っても、そんなに悪いことではない。興行だからね。現実的であることは悪いことではない。
原作者のスティーブン・キング自身、そこまでの作品(評価)になると思ってなかったそう。多分、みんなして、見どころ豊かでまとまりのいい佳編と作ろうよ、と、とことん追い込まずにエンタメ・バランス良く作った。ところが意外にも映画史に残る傑作と言われてしまった・・・という具合かなと。
Wikiで解説を読むと、キリスト教神秘主義に根差す作品であるとのこと。ビールを12人の囚人仲間に振舞う場面は最後の審判を模している、場内放送で「フィガロの結婚」を流し、病人まで立ち上がるのは、聖杯の発見による奇跡の現出らしい。へ~っと思ったが、なんと、英題のThe Shawshank RedemptionのRedemptionに「贖罪」の意味があるんだって! ひどい。それ知ってたら、見方がかなり変わったのに。
でも、そういうのも作品のハッタリになるけど、それ以上ではないというか、メインの解釈とするのは、本作においては違うと思う。それだと、主人公の最後の立ち位置(つまりイエスの復活後のはず)が余計わからないし、残された人の中にかっこたる信念・信仰も生まれてないしね。
そして、クラシック通としてひとつ言わせてもらうと、場内放送の「フィガロの結婚」からのアリアは、選曲的にイマイチだったと思う。
同じような演出として『フィフス・エレメント』でのドニゼッティ「ランメルモールのルチア」のアリアや、『ライフ・イズ・ビューティフル』でのオッフェンバック「ホフマン物語」から舟唄が使われるが、それらに大きく劣っている。難のないところでモーツァルトくらいに落ち着いたのだろうが、中途半端と言うかジジ臭い。もっと、作り手が「この曲だ」というのを選べば、ああいう場面にはならなかったはず。第一、「フィガロ」は何度も聴いたが、この曲は全然覚えがないしね(笑)
僕なら、年代こそ浅いが、R.シュトラウスの「4つの最後の歌・春」くらいで行く。そうすれば、あのシーンの説得力は全然違っただろう。
素人からは映画史上のベスト3に入るが、評論家からはベスト100には入っている、くらいが海外の妥当な評価のよう。
刑務所生活の暴力描写。モーガン・フリーマンの調達屋。実力や教養のある男の成功ぶりの高揚感。いくつかのわかりやすい名シーン(僕は半分くらいしか馴染めず)、大どんでん返し、そして宗教の神秘を背景とするハッタリなど、見どころ十分で見了感のいい佳編。しかし、それだけの映画、という感じです。75点。
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