黒川博行著『疫病神』を読んだ。
氏は、同シリーズの第5編『破門』にて第151回直木賞を受賞。同じ高校の後輩が芥川賞を同時に受賞したとことも話題になった。
作品は素晴らしいの一言。これだけの地力の人がまだいるのか、ミステリー作家の分厚さは底が見えないな、と少し嫌になったくらいだ。
構成の重厚感、プロットの細かさ、人物の魅力、スピード感など、どれをとっても最高クラスと言っていい。ただ、唯一の欠点は、その芸の細かさが行き過ぎていて、登場人物が多すぎるなど、ストーリーを正確にとらえるのに苦労することだろう。
僕は最近、以前のような精読ではなく、ちょっと斜めに読むようなスタイルなのでそれが苦しい。いや、逆に一気読みなのでまだ理解しやすい部分もあるからまだマシな部分もあり、「浅く、ゆっくり読む」という人なら、まず間違いなく途中で投げ出してしまうだろう。ここは改善した方がいい。絶対に。
しかし、それ以外は本当にケチの付けようがない。
探偵役は「建設コンサルト」の肩書を持つ、いかにもスキマ産業に生きる二宮と、イケイケの怖いもん知らずヤクザである桑原のふたり。このデコボコ・コンビが、それぞれの長所を活かしたり、それが裏目に出たりしながら、ハードボイルドに謎を解いていく。また、二人の間にほんのりと香る友情も作品のスパイスだ。
しかし、なによりこの作品の最大の魅力は、全編にあふれる大阪弁、大阪臭であろう。
全員があつかましく、タフ。基本けんか腰で、怖く、会話はおもろい。
そして、このへこたれない感じが大阪人のいいところで、おもろいことこそがやはり最高の美点だと僕は思うのだ。
(桑原)「稼ぎの半分で堪忍したる」
(二宮)「「あんまりや。これはおれのシノギです」
「くそぼけ。誰に背負うてもろて、ここまで走れたんじゃ」
「たった一晩、走っただけやないですか」
「調子こくなよ、こら」
「しゃあない、折れますわ。その代り、茂夫の始末は頼みます」(注:二宮を襲った茂夫というヤクザを桑原はのして肘を砕いた)
「なんじゃい、まだ気にしてんのか。お前は機嫌よう殴られただけやないけ」
「別に機嫌はようないですけどね」
「他人の痛みは三年でも我慢できるわい」
大阪人の会話は実際おもろい。
別嬪も人を笑かすし、子供もセンスある。それが大人の男なら、ものすごい苦境に立たせれていても笑かそうとギャグをかます。いや、そういう時にこそ強がる。なぜか。「それが男やないけ」「おもろない男に価値はないんや」というのが、身体に染みついているからだ。
解説の後藤正治氏によれば、黒川さんは、飲みに誘われると、遠くにいようが、体調が悪かろうが、締め切りに追われていようがケロっとやってくるような人らしい。
う~む、アウトロー、ハードボイルドを地で行ってはりますなぁ~
そして、大のギャンブル好き。直木賞の賞金の使い道を聞かれた時も「マカオに行きたい」と答えたそうだ。
珍しく互いの息子の話になった。
(後藤)「黒川さんとこ、どうなん、親子の会話ってあるの」
「ないな。第一しゃべることあらへん」
「そうやねぇ」
「親父ともそうだったな。こっちはろくでもない親父やと思てたし、いまの息子は俺のことそう思とるやろ」
もとより、黒川氏一流の言い回しであって、言葉通りに受け取ると間違う。(ここまで引用)
まさに大阪のクソ大人の会話。
照れ屋で、かっこ付けるのが一番かっこ悪いと思いながら、それでかっこ付けてしまってる。
いつもふざけていて、ふざけてない男に魅力がないと思っている。つまりパンク
僕は神戸生まれで京都に長く住んだせいもあるのか、大阪、大阪人がちょっと苦手ではある。
でもやっぱ、ここは魅力的な土地でもあり、大阪人にはいい味もあるのだ。
・・・って、コーヒーBOSSのCM?
まっ、そのように、この作品により改めて思った次第です。
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