tar/タ― 2023/9/25 By Leave a Comment 大学の友人に勧められて鑑賞。高評価なうえクラシック音楽絡みということで期待して観たが、なんとも言えない作品だった。 女性で初めてベルリン・フィルの首席指揮者になった架空の人物リディア・タ―を描く物語。 セクハラ・パワハラ絡みでの転落ストーリーを、敢えてレズビアン女性に当てて描いたこと、そして名優ケイト・ブランシェットを招いたことが作品のキモなのだが、それだけわかっていながらも「何のための映画なんだろう?」と思わされてしまう。 ひとつにはあまりにリディアが男性的すぎるのだろう。 BPOのコンミスと結婚し養女もいるのだが自分のことをパパと呼ばせ。好みの女性がトイレに入ってくるとつい身体を折って個室内の彼女の足元を覗いてしまう。 地位を用いての古典的なセクハラと併せて、ここまでガッツリ”男っぽい”人は今どき男性でも少ないと思うのだが、これでは「男の皮をかぶった女の転落物語」=実質男の転落物語にすぎなくなり、つまり、レズビアン女性を選んだことが生きてこないのでは?と感じた。 とはいえ、その描写は偏ってはいない。 例えば、後半に描かれるチェロ奏者オルガとの顛末。気に入った女性にあるいは地位も利用して近寄っていくのだが、その眼には権力者の余裕などなく、ただ、いまだ手に入らない若年者への不安や遠慮が映るだけ・・・つまり、そんじょそこらに転がっている歳の差恋愛での年長者の表情そのものだ。 他人のレビューは相変わらず手厳しく、これを典型的なパワハラ、セクハラと呼ぶ。確かに、オルガを引き連れて海外出張したり、前に関係があった若手指揮者の将来を潰そうとしたりはその通りだ。しかし、バッハが白人的男性優位主義者であるから興味が持てないと言われてムキになって学生を論破するとか、性的興味を感じた女性におどおどと近づく姿は、人間性むき出しな姿にすぎないというか、正直同情がはっきりと勝つ。 後半はネットとかであることないこと披露されてリディアをがんじがらめにしていく。いわゆるキャンセルカルチャーの問題を描いており、問題提議は多い。 しかし、それでも「だからどうした?」となる。 深みを出すために色々と設定したのであろうが、結局は中途半端になってしまったのではないか。典型的なハラスメントと感じた人にはそもそも何も伝わっていないし、僕のように同情的に捉える者にとっても、やはり社会的に許容できないハラスメントははっきりと認めざるをえない。 そしてラストも、光明を見出したようであり、決定的に転落したようにも見えるのだ。 策士策に溺れた、と言うべきか。少し頑張りすぎてしまったように思った。78点
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