この宮崎駿最新作で、評価が星☆と星☆☆☆☆☆に2分する”珍現象”が起こっている。そして、レビュー内容は、どちらにしてもみなボロボロだ。
「難解作」と言われるが、そうだろうか?
生きるのに息苦しい少年が、都会から田舎のミステリアスなお屋敷に引っ越したことでファンタジー世界に入り込み、成長して帰ってくる話。つまり王道ミステリー。
以下ネタバレを覚悟してほしい。
「難解」はすなわち言いたいことがわからないということだろうが、僕にはシンプル。
と言っても二つある。
一つは宮崎翁を大叔父と見て、ジブリやアニメ世界の”小さな”話。
自分は知識を得て高齢に至り、世界のバランスを取るような、よく言えば無欲壮大、悪く言えば面白くない作品を作るようになったが、それを息子や次代のクリエイターに引き継いで欲しいような、全くぶっ壊してほしいような。
13の石は恐らく彼の監督作品を表し、次のピースは君が積んでくれ、などと言う。
もう一つは若き日の駿を主人公眞人として見せながらの、若者全てへの”大きい”メッセージ。君たち一人一人が生きているということは、それだけでなく、その積む1石が世界のバランスを取ったり変えたりしているということだ。人生は捨てたもんじゃないし、大人は意外と手伝ってくれるよ。ゆめゆめ死のうなどと思わないように!と。
死の匂いがプンプンすると言われた眞人が立ち直っていくのだから明快だろう。
シンプルすぎて、僕にはむしろストーリー展開に魅力がない。
それよりも素晴らしいのはディテールだ。
※美術云々は朴念仁なので初見であまり目に入ってこないが。
眞人に、お母さんの妹という微妙な新母ができるが、母に似ながら他人(会った記憶はない)という距離感。会ってすぐに「赤ちゃんがいる」とお腹を(帯の上からだが)触らされる。
美人で振る舞いも完璧。眞人自らが付けてしまった頭の傷を「お父さんに申し訳ない」と指輪をはめた手で柔らかく触るその描写がエロティックなのは、眞人の心象風景と見てよいだろう。
さらに、父親が帰宅したときに目撃してしまう熱いキスシーン(足元しか見せないのは良し)。
眞人がこの継母を嫌うのは、上から抱擁するように接されるだけでなく、性的に意識してしまうからでもあるのだ。
ところが、ファンタジー世界でお産に苦しむ継母が見せる姿は現実世界と一変。
余裕もクソもなく「あなたなんて大嫌い!」と言い放たれて、逆に少年は一気に成長。「夏子母さん!」という今まで言えなかった言葉で呼び、彼女を救い出す。
いくら戦後すぐでも20代後半(?)の女の子だもの、まだガキでもある。
完璧な後妻を演じようとしてもやはり無理があって、それが一気に迸る。あぁ、二人の「人間」をこれほど上手に描ける人が他にいるだろうか?これでは” 後継者”が育たないはずだ(笑)
そんな素晴らしさも満載ながら、引退を撤回して描きたかったのがコレであることには疑問のほうが大きい。まさにこれこそ言い残したかったことなのだろうけれど、そうであればこそ「秘すれば花」。最後もどこから思いついたの?みたいなファンタジー、しかもロマンテックの2乗みたいな作品を見たかったな、と私的には思う。82点
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