読書には当然「当たり」もあれば「はずれ」もある。
2~3週間前は「当たり」続きで大いに読書熱が湧いたが、ここ10日間くらいは逆に「はずれ」ばかりだ。
藤沢周平『逆賊の旗』は短編集で表題作以下4編が収められている。
僕はこの人の代表作と言えるのはだいたい読んでいて、どれも大傑作から悪くても「準」というところだったけれど、こういう特に評価の高くないものではやはり「それなり」になってしまうのだと改めて知った。
特に表題作は、明智光秀が本能寺の変に至る前後の心理をつづったものだが、こういう「大歴史」は司馬遼太郎の本領で、周平はみみっちい歴史もの、あるいは時代劇ドラマというイメージ通り、やはり冴えない。
贔屓目に見れば、この時代にはそれなりに真新しい描写であったのかもしれない。つまり、今読んでも驚くようなところが全くなかった。
しかし、2編目の「上意改まる」のみはスッポリと僕の趣味にはまった。
残り2編もまたしっくりこなかったのだけど、この「上意」に限っては、僕が映画監督ならすぐにでも撮りたいなと感じるくらいだったので、この話だけはまた後日にしてみたいと思う。
続いては西澤保彦著『腕貫探偵』。人気シリーズの第1作だそうな。
人気シリーズというのはどうしても期待してしまう。なぜなら、それがおもしろければ、引き続いてその世界を楽しむことができるからだ。ただし、僕の場合は詰めて全部読み切ってしまうということはあまりせず、他のを挟みながらちょこちょこ進んでいくことが多いけれど。
内容は予想通り、ライト・ノベル・ミステリーそのもの。
似たところで『謎解きはディナーの後で』を挙げればだいたいわかってもらえるだろうか。
そこそこに楽しく、特に1篇なかなかのものもあったが、すべてを読み終えようとまでは思わなかった。
う~ん・・・55点。
最後は古くからのお客さんで、友達とも言っていい「種ちゃん」お勧めの著者高田郁さんが書いた『心星ひとつ』。
これも著者の代表作である人気シリーズ『みをつくし料理帖』の、ただし第6冊。
なぜに第6から?と問われると情けないが、ただ単に本屋にあったのがそれであったので、まあ途中からでも良し悪しの判断は付くだろうから、趣味に合うようなら改めて遡ってみようかと。ずいぶん僕も大人になったものである(笑)
時系列的に完全につながるかたちの短編が4つ収められているが、残念ながら2つ目まででストップさせてもらった。
江戸時代の「ちょっといいごはん屋さん」を舞台にした人情劇で、なんでも本作は、裏表紙に「シリーズ史上もっとも大きな転機となる、待望の第六弾!」という位置にあるらしく、ストーリーは意外に大きく動いていた。つまりいいところを手に取ったと思っていいだろう。
主人公の女料理人が、より上位の同業者から「あなたは料理人失格だ」と言われ、なんとか食らいついて理由を聞きだすと、それは腕ではなく心がけの話。逆に去り際に「今の店のままだと、そのレベルで止まるが、それでいいのか?」と実は高い評価をされていることに気づかされる。
なかなかにぐっとくる演出だ。そして、ストーリー自体もおもしろい。では何がダメだったか。
一つには人情劇にすぎる。皆々優しく、上品で暖かいのだけど、それが僕にはリアリティを欠くレベルになってしまっているのだろう。
次に、職人芸の世界を上に持ち上げすぎ、彼岸にまでいっちまっている。
これは良くない。
僕自身がアーティスト=職人なのでこれは強調しておきたいけれど、職人芸というもの(の多く)自体、本来そういうものではないはずだ。
例えば僕の仕事の話なら、そうだなぁ・・・
うまい人は最初からうまく、センスのない人がどれだけ頑張っても高が知れている、そういう世界でもあるんですよ、残念ながら。
ちょっとずれたことを言っているようだけれど、そのことこそに、職人芸というものの限界とか、本質的特徴があるように思う。
本書の中に、ご飯と汁だけを極めて、最高位に上っている店が出てきて、リアルの世界でも結構似たようなのがあると思うけど、そういうのをありがたがるのはどうかと感じる。
だって、おかずも適度にバラエティがあるほうが、いいに決まってるじゃないか。
僕らの世界であれば、その人に似あうこと、ちゃんと流行を取り入れていたり、心弾むような遊びもあること。こういう「コンセプト面」で成功していてば、少々仕上げが甘くてもよい仕事ができるものなのです。それを前に、じじむさい感性の人が、でも完璧なテクニックを持って仕上げた作品など、しょせん敗れ去ってしまう。
ジャンルにもよるだろうけれど、このような理由から、「極めるという発想自体が危険」であるのが職人芸というものではないだろうか。ある時点で目標にしていたものが、10年後にやっとそれに近づいた日には、もうあまり価値がなかったとか。「設備充実」にあっさり負けちゃったりとか。
だから、こういう風に「○聖」みたいなのを奉ってしまう書き方が僕には性に合わない。
自分自身が職人であるから・・・などとまとめると、ちょっとかっこつけすぎだけれど(笑)
コメントを残す