『チャイナタウン』はまさに本格映画 2023/7/5 By Leave a Comment 久々にすごいものを観た、という感じだ。 なんか、完成度がすごい。 『タクシー・ドライバー』みたいな完成度とはまた違う。あれは、テーマ性を一点の無駄もなく凝縮させたという完成度。こっちは逆に近い。映画の雰囲気が完璧というか、何も無理はしない普通の見せ方でありながら、それでもちっともこちらを緩ませないというか。 “フィルム・ノワール”とか”ハードボイルド・ミステリー”に位置づけられる作品である。「と言っても・・・」とかない。本当にその通り。でも、こんなに自然と撮ってて、どうしてこんなにノワールになったり、ハードボイルドが浸み込んでくるんだろう?って驚いてしまう。 ロマン・ポランスキー監督作品。『ローズマリーの赤ちゃん』や『マクベス』を観ていたが、本作も含めてそれぞれに作風が違う。凄腕中の凄腕って感じ。 ノワールだと、もっと暗い色調になったり、ハードボイルドならアップテンポだったり。でも、この映画はカット割りなんかも平凡というかオーソドックスなのだが(最後は凄い長回しらしい。その辺没入していたし、他のカメラワークにも気づいていないだけかもしれんが)、それらしい雰囲気に満ち満ちている。”芸格が高い”という言葉がぴったりか。 ジャック・ニコルソンは、もう少し人格の偏った役が多いと思うが、本作では無鉄砲ながらもまずまずニュートラルな役どころで、彼の扮する私立探偵が、クールに大胆に、怒りを内包しながら、少し女性に翻弄されながら真相に迫っていく、という王道ハードボイルド的展開。ファッションや音楽、ロケーションにも色気がある。お色気というとフェイ・ダナウェイも魅力的だが、いつもながらスクリーンではほぼ男性を目で追ってしまうので、まあそこは。 脚本が非常に優れているのも本作の特徴だが、やはりひっかかるのは全てが台無しになる(作品性ではなく、主人公の頑張りの全て)ようなラストと、『チャイナタウン』という題名の是非だろう。 ロサンゼルスの、でもチャイナタウンが舞台になるわけでは全然ない。ただ、主人公の口などからやたらと「チャイナタウンはひどかったな」などと言葉に出てくるし、主要キャラ以外の家事労働者などに中国人がやたらと多い。 そんな中、ラストの場面だけ舞台が中国人街=チャイナタウンに移り、そこでミステリーは解決するまでも、すべてが台無しになるわけだが、それはほんの少しの時間であり、やはり「チャイナタウン」という題名が違和感を持たせるわけだ。 案外失敗に近いのかもしれない。ラストを悲劇にするのは監督が押し切った筋書きらしいし。もっと、原作(オリジナル脚本だが)は「チャイナタウン」らしいもので、それを削りながらも衝撃シーンだけはチャイナタウンに持ち込んでしまったみたいな。 しかし、それゆえに人の気持ちに引っ掛かりを与え、繰り返して咀嚼され、心に刻まれる結果になったという意味では大成功なのではないか。 少なくとも僕は見事に引っかかってしまっている(笑) 87点
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