『ティファニーで朝食を』 2022/3/4 By Leave a Comment 観ている間、すごくおもしろい、という映画でもありません。65点くらいの気持ちで観ている。しかし、観終わってからは、いろいろと考えさせられる映画でした。 一番多いのが「おしゃれな映画」という評価ですが、私は立派な文芸だと思う。心に残る映画です。 冒頭の場面、早朝無人のNYティファニーショップ前で、ドレスアップしてパンをかじるオードリー。(ポスターのように、カフェで優雅に朝食を取る場面はありません。そもそも、この映画の影響で、ティファニーはカフェを出すようになったらしいですし。)この映画でも最も素晴らしいシーンですが、その場面の意味することが何なのか、というのが一種のミステリーになっています。 華やかで美しく、ユーモアもある素敵な女性ですが、寂しい表情や、荒れてキレた姿も見せる。ミステリアスな主人公は何者なのかは、同じアパートに住むことになった、売れない自称小説家の男性と徐々に心を通わせる過程で、実は高級娼婦であること、知的障害をもつ兄を養いたいという目標を持つことなどがわかってきます。 アパートの前に現れる怪しい初老の男。しかし、実は彼は、オードリーが田舎に残してきた夫でした。作家に彼女の本名を明かした後、「生きるのが難しいくらいの兄妹を引き取り、14歳の彼女を後妻にした。同じような年の子供たちの世話も、苦労もさせていない。明るくていい女なんだ」と話す夫。再会を喜んだオードリーでしたが、あっさり旦那さんを帰らせてしまいます。 僕が好きなのが、その別れの場面。 20年間位? 命を救ってくれたことで献身的に妻を演じてきたが、恋愛や華やかさのない生活に別れを決めて出てきたからには、もうそこに戻れはしない。別れ間際に、彼の手を握りながら見せるオードリーの泣き笑いのような表情は、「人を裏切ってでも、幸せを求めるわがまま」を肯定させられる稀有なシーンとなりました。 そして、作家についに明かされる彼女の心の中。今の生活の華やかさを楽しみつつも、時々目の前が真っ赤になるくらい苦しくなる。そんな時は、私の幸せの象徴であるティファニー店に行きたくなる。しかし、早朝なので誰もいないのだ、と。 ついに二人の心が通じ合い、彼が新しい生活を決めたその次の日、オードリーは言い寄って来ていた南米の富豪との結婚を決意します。恐らく正妻でない分、自由に楽しく生きられる生活。金の苦労がなく、気ままであることを選んだのでした・・・本当の愛ある生活ではなく。 有名なラストシーン。雨の中で猫を拾い、自分も名のある人間として、本当の愛や実のある生活と向き合わなければならない、と決意する場面は、しかし、今では格別とまではいかないかな。 生きるのも難しい幼少期、義理を通して自分を殺した青春期を経て、本格的な老いの手前で富や自由を手に入れようともがく生き方は、しかし本当の愛あるくらしをあきらめている。 ヤフーのレビューは散々に近く、主人公のわがままを全く許容しようとしない人、ただ単に内容を全く理解できてない人が多いのは、今の若い人だからなのか、若い人というのはこうだっけか? 総合点数が悪くもないのは、オードリーの美しさ、映画のおしゃれさ、そして音楽への称賛からのようだが、その音楽は、名曲「ムーンリバー」とそのアレンジを頻用しすぎていて、私にとってはむしろそこが一番の不満でした。 見終わってからしばらく経って、今は80点。
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