海舟の妹にして、象山の妻 『お順』 2014/10/2 By 1 Comment 「お順」諸田玲子著(上・下)を読み終えました。 僕は初めて知ったのだが、このお順、勝海舟の妹にして佐久間象山の妻という女性だそうだ。 う~む、素直にすげえ! 物語は幼少期から晩年まで。お順の目を通して、幕末から明治初期の世相と、彼女が愛した3人の男性、そしてそれ以上に兄・勝麟太郎海舟の姿が描かれる。といっても物語の主人公は飽くまで順で、恋愛遍歴の比重も高い。 この手の小説に良くあることで、どこまでが資料に基づいたもので、どこからが作者の創作なのかがよくわからないが、歴史小説としても朝ドラ的な女の生きざまものとしても読みごたえは十分。 特に優れているのが、そこで詳しく描写される男性たちの姿だろう。 お順の父子吉は、直参旗本ながら無役で、その悲哀からも放蕩を続ける。しかし、性根の良さ、面倒見の良さが合って、むっちゃくちゃながらも憎めない人で、家族からも敬愛されている。 麟太郎もさわやかだ。努力家にして「人たらし」。思い切ったこともするくせに、常に逃げ道(政治的ではなく、テロの襲撃からの)も用意する慎重派を描き切った。 そして、さらに白眉と言えるのが象山像。 傲岸な自信家であり、敵が多いのに大した用心もせず、その挙句テロの嵐吹き荒れる京都で凶刃に倒れたこのうっかり者を、無私で家族思いの一男性として現出。僕はこの人に対して詳しくないが、これはひょっとして新しい佐久間象山像として一定の位置を占めうるものではないかと思う。今の信長像を司馬遼太郎が作ったというのと同じような意味でね。 それに比べて、本職とも言うべき(?)女性のキャラクター描写は、若干平板だった気もする。いや、お母さんなどは良いので、主人公のお順その人がか。 江戸っ子のちゃきちゃき娘キャラも、気持ちはいいがまあありがち。恋愛の方も、象山と死別したあと、ガクッとランクの落ちる3人目のごろつきとデキちゃう理由として、最初に惚れた男で、婚約段階で亡くなった島田虎之助への恋慕を引きずったためとしたのも、なんか言い訳臭い。いや、そういう分析は後付けとしても、長い作品を通して「お順、頑張れ!」という気持ちにあまりさせられなかったところが、作品として少し落ちると思うのだ。 と言っても男性の立場ゆえであり、女性から見れば大いに共感できる、という話かもしれないのだけれど。 70点。
山中 健 says
お順の読みはおじゅんなのかおよりなのかその他なのか教えてください。