邦画最古で最高のコメディ『丹下左膳余話 百万両の壺』 2023/12/8 By Leave a Comment 2~3度目の鑑賞となるがやはりおもしろい。 山中貞雄監督作品では『人情紙風船』も有名だが、こちらがはるかに優れていると思う。1935年公開作品らしいがとにかく垢抜けてモダンなのだ。 どう良いって、観てもらえれば誰でもわかるだろう。 丹下左膳を、その「顔」であった大河内傳次郎に務めさせながらニヒルな従前のイメージを一新、根っからの好人物に変えてコメディに仕立て上げたという背景も愉快だが、それらを知らぬ世代が見ても問題はない。 最秀逸なのは、左膳とお藤のやり取りだ。 お藤は左膳が居候する「矢場」の女将である。「矢場」というのはどうも、射的(弓矢だが)など遊興施設であるが、ホステスもいて、つまりは昼からやってるスナックみたいな水商売店とみて間違いないだろう。 射的は距離も短くたわいないもので、丸い的は大小あるが、一番小さいのに当てると、上からくす玉よろしく、色んなものがぶら下がり落ちてくるという「仕掛け」もある。 そこに彼氏&用心棒として離れ間でゴロゴロしているのが左膳という設定。この中年カップルが、始終口喧嘩ばっかりして、お藤が三味線で歌い出すと、左膳が拒否反応代わりに店の招き猫を背中向きにひっくり返すという小ネタをずっと繰り返しているのだが、その実はお互い最も気の置けない関係にあるのが徐々に見て取れ、微笑ましい仲である。 この二人の腐れたような関係の中人情劇が展開するが、ぜ~んぶすっ飛ばして、本当のオーラス、最後のシーンの話をしよう。 左膳もさすがの本業(チャンバラ)を見せて一件落着、主力が一堂に矢場に集まり憩いの時間となる。お藤が歌を披露すると、養子にもらった安坊に申し伝えて、いつものように招き猫をひっくり返させる左膳。迫力満点のお藤にじろりとねめつけられ、左膳の目が泳ぎに泳ぐ、その全てがおかしい。 剣を取って無双の働きを見せたばかりの左膳が、やって意味もない嫌みをわざわざし、安坊は恐る恐る、お藤もいい気はしないしのに、本人までビビっていたのではホント何も良いことはない。 それでもやる、という長い年月を刻んだ中だけに生まれる決まりごとの中、手持ち無沙汰にひょいと投げた矢が、これまた「本当?」みたいに一番小さな的を射て、上からくす玉のような仕掛けがドーンと落ちて「終」となる。 なるほど、この仕掛けはラストのためにあったのだなと最後まで垢抜けた脚本に感心しきる中、画面はもう暗いのだ。 これほどの洒脱な映画は、最新作まで見回してもいくつも見つからないのではないか。83点
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