千代の富士と北勝海

先日、千代の富士の九重親方が亡くなりましたね。
僕にとっては結構ショックでした。

まだ若いし、何より「強い男」というイメージだった。つまり死とはまだまだ遠かったんだね。
といっても大好きな横綱だったわけではない。むしろ僕が愛したのは、その後輩の横綱北勝海（ほくとうみ）のほうだった。誰？と思うかもしれないけど、そんなにマイナーでもない。今の八角親方、つまり理事長になっちゃった人ですから。
優勝も10回くらいしたのかな(調べたら8回だった）。
抜群に強くはないが、成績は安定し、しかも、肩に持病を持っていた千代の富士が休場した場所が突出して強かった。どれくらい意識していたかはわからないが、千代の富士がいる場所は援護射撃的、不在の場所は穴を埋める、という気持ちが働いていたのは間違いないだろう。
千代の富士が引退した後は、自然第一人者の位置にしばらく座ると思われたが、案外すぐに力を落として自らも引退したと記憶している。

この北勝海と千代の富士の兄弟弟子関係が、僕にとってのツボのなかのツボ、どツボなのでぜひ聞いてください。
北勝海が上がってきたころには千代の富士はすでに第一人者として君臨していた。対して、若手だった北勝海は、小柄であることは千代の富士も同様だったが、千代の富士に比べて（外見も含めて）特別に輝く部分もなく、突き押し相撲であったこともあって、若手のホープながらも、将来同位置にまで上り詰めるほどの存在とは、恐らく自らや親方、そして兄弟子の千代の富士も含めて、誰もが思わないような力士だった（と僕には見えた）。
そのことは、彼が大関に上がるまで本名の「保志（ほし）」をしこ名にしていたことにも表れていると思う。
千代の富士は、保志のことを「ポチ」あるいは「ほし」と呼び捨て、保志は千代の富士を「大将」と呼んで、後日の語り草になる猛稽古を励んだが、この関係は千代の富士の引退まで変わらなかった。
つまり、横綱として両者並び立つ関係となっても、千代の富士は公然と「ほし」と呼び、北勝海は「大将」のまま、そして千代の富士は北勝海に胸を出し続けたのである。
この上下関係！これが僕のツボにして、究極です。
上に立つ者は、最後まで意地を見せて、飽くまでも上から接する（それでいい！）。そして、下の者は、終生、その上下関係を変えない。現実的な力関係が入れ替わっても、そこは決して曲げない。いや、力関係が入れ替わればなおさらです！
千代の富士の死に際しての、八角理事長のコメントは、やはり彼がそういう関係を終生変えてはいなかったことを物語っていると思う。
まず、最初は人を通して「いまは整理できていないので何も言えない」とだけ。
次に、「決して負けない強い男と信じていたので、今も死が受け入れられない」と。
自分にとっては、千代の富士は無敵の大将でしかなかった。現実を超えて燦然と輝く存在であったことがうかがい知れますね。
泣ける。。。
元魁皇の朝香山親方も、同様に謙虚な発言をして男を上げた。
ともに幕内1000勝を果たした（ふたりだけかな）が、「自分の1000勝は、千代の富士の1000勝とは比べられるようなものではない」と。いや、実際内容的にその通りなのだけれどｗ、自らそういう謙虚なことをさらっと言えることがいい。こうやって、男は遜って、自らの値打ちを上げるのが美しい！
しかし、北の湖に続いて千代の富士とは。。。
北の富士さんも、自らがまずまずの横綱であってながら、「大鵬、北の湖、千代の富士。どうして強い人から死んでいくのだろう（自分などが生き残って）」ということをおっしゃいました。これまた男を上げたんだけれど、今度はそっちじゃなく内容のほう。本当にその通り。偉大な人たちがあまりに早く亡くなっていますね。
寂しい限りです。