山師の男が石油王(個人経営で、メジャーに比べると弱小だが)に成り上がる話。濃い物語で基本好みだが、最後が釈然としなかった。

それにしてもまず称賛されるべきは、主演ダニエル・デイ=ルイスの演技だろう。先日観た『パピヨン』のスティーブ・マックィーンの演技も凄かったが、また種類が違う。マックィーンのはボロボロやヨレヨレにもなる文字通り体当たり演技であるのに対し、ダニエル・デイにはそこまでの苦難は訪れない中での演技だ。しかし、そのキャラの作りこみの完璧性ゆえか実在感が凄まじく、マックィーンのように「頑張っているな」と思わせないところは、一枚上手にも感じさせるほどだった。
問題のラスト。
新興宗教のような怪しさを持つ牧師イーライは、彼の山師体質と実は似通っており、自分には一回り及ばないくせに何度でも挑んでくるさまを心から苦々しく感じていたのは想像できる。だが、一度は煮え湯を飲まされた牧師のイーライに倍返しを果たし、彼を絶望に追い込むまでで十分なのに、なぜ命まで奪ったのか。
自らの人生もそれで実質幕を下ろすのだが、どうしてもこの場面には説得力を感じなかった。
もう一つ気になるのは、題名”There will be blood”の意味だ。旧約聖書からの一文で「やがて血を見るだろう」くらいの意味。彼のような人間は血を見ずには終わらないという意味なら実際ラストでそうなるのだが、それだけではあるまい。
愛息の独立意志を聞いて「お前なんかは息子ではない。実際、お前とは血縁が無いのだ!」と言い放つが、”血縁はあるだろう。血は流れているのだ”という意味を掛けているのではないか。
実際に両者に血縁関係があったかは描かれていないので不明だが、僕はあったのではないかと感じる。主人公は血縁もなく人を心底かわいがるような人間ではないから。
こうやって書いていても、やはりラストも、作品の言いたかったことも釈然としない。しかし、それでもいいのだろう。テレビドラマなどとは異次元の濃厚な描写でなんとなくしっくりこないもの・・・まさに映画作品そのものじゃないか。83点