シリーズ最高傑作とも言われる第15作「相合い傘」がすごくよくて、マドンナ・リリーの登場会となる第11作「忘れな草」をこの度鑑賞。残念ながら?まずまずと言ったところだった。
リリーと寅さんの出会いの場面がいい。
家庭環境に恵まれず、はぐれ物として生き、売れない歌手で地方巡りをする人生。「わたしたちの人生って、軽い。あぶくみたいなものだよね」との問いかけに対し、寅さんが「そうだな、あぶくの中でも上等じゃない、湯船でこいた屁の、背中に回ってパチンっと割れたやつみたいなもんだ(わざとママでなく、意味で拾った)」と返してリリーが笑うのは、名場面、名セリフと呼んでいいだろう。
その後もリリーが積極的に寅への思いを語っていくも、寅が踏み込めないままという状態が続き、ついにリリーが寿司屋の奥さんに収まってしまうのだが、ウィキペディアの言うように、リリーが激しく寅を恋していたか、というとそれもまた違うと思う。
ウィキでは、一度でいいから、自分から惚れ込んでみたい。今まで一番惚れたのは寅さんなんだ、という解釈だが、その場面はニュアンスが異なるのではないか。
寅さんっていいよね、私も一度でいいから寅さんのように自分から惚れ込んでみたい。私はいつも惚れられて付き合ってしまうばかり、今までこちらから好きと思ったのは意外と寅さんで一番くらいかな、という流れだと思う。つまり、ちょっと言い方が悪いかもしれないが、それくらい人に惚れてきていないのよ、と。
リリーは、寅さんのハートの良さを心から慕って、頼っていたが、異性として強く求めていたか、という意味では、やはり大したことはなかった。そうでないと、なんとなく全体的にしっくりこない。
とにかく鮮烈な印象を残したリリーであったわけであり、このデキを見て山田洋二は「浅丘ルリ子のリリーならもっとやれる」と考えて「相合い傘」を書いたそうだ。だから本作は、シリーズを俯瞰してみれば、いわば最高傑作相合い傘の序章的な位置づけでよいのではないかと。
僕みたいに相合い傘から見ることはわざわざしなくてよいが、2本観るなら本作からでも、1本だけなら「相合い傘」だけで全然よいとは思うし、スタッフには前説を付けて、「相合い傘」だけを推薦としておいた。78点
