Takumi Blog

タクミな話

歌劇「蝶々夫人」~人を信じるということ

当初の予定と順序を変えて、ここでいきなりオペラをひとつ紹介します。
と言っても、このオペラ・CDの話は既出になりますが、その点はご容赦を。
オペラで紹介したい一番目となると、どうしてもこれなのです。
●プッチーニ 歌劇「蝶々夫人」

200px-GiacomoPuccini

                (写真はジャコモ・プッチーニ 1858~1924)
プッチーニの残した10余りのオペラのうちでも、三大傑作に数えられるのが「ラ・ボエーム」「トスカ」とこの「蝶々夫人」だけれど、その中では蝶々さんが一番ストーリーが弱いと言われる。
ということは、ストーリーが弱くてなおワン・オブ・ベストだから、音楽だけならば№1の評価を得ているとなるよね。これにまず僕は同意。
そして、問題のストーリーだが、これがまた、僕にはダントツ第一位に良いと思えるのです。
歌舞伎のようにテーマをぐっと絞って、ただのひとつに純化し、しつこくネチネチやっているのがいい。
それは「人を信じるということ」についてだ。
江戸時代末期の長崎。アメリカ人の船乗り(船長)ピンカートンが日本人妻として選んだのが蝶々という少女であった。彼は、色々な国をめぐっては現地妻を「雇い」、金銭を十分に渡して去っていく、を繰り返しており、罪悪感はゼロ。将来はアメリカ女性と「正式な結婚」をするつもりの陽気なヤンキーだったのだ。
短い結婚生活が終わり、例によってピンカートンは日本を離れる。「コマドリが巣を作るころ帰るよ」と言って。それから、蝶々さんの“信じて待つ”人生が始まった。親戚などからは新しい夫を探せと諭されるが、それを振り払って夫を待つ蝶々さん。「アメリカではコマドリは毎年巣を作らないのだわ」
そして、ついにピンカートンの船が長崎に現れるが、それは、すでに米人妻を得たピンカートンが、息子を引き取って育てるためだった。子供は父親に引き取られるべきと判断した蝶々さんは、自分がすべてを失ってしまったことに気付き、自らの死を決意する・・・。
僕は人を信用する話が大好きです。
三国志の劉備・関羽・張飛の間柄が典型的だけれど、彼らは疑うということを放棄して思考停止している。その愚行とも言える行動が、でも美しいんだな。この世で一番と言ってもいいくらいに。
人が他人を信じることは、博打みたいなものと思う。他人に対する信用度はやはりグラデーションをなすんだけど、その最高ランクまでくれば、「信じる」と決めて疑いを放棄する。僕はね。そして、もし裏切られたときは・・・、その時はそれまでです(笑)
やっぱりこっちが勝手にしたことなんだよね、所詮。こちらの趣味嗜好でそういうことをしたわけで、裏切られたのは信じた自分が悪い。それに、裏切った方にもそれなりの理由はあるでしょうし。
もちろん、それで裏切ったほうが安堵しちゃったらダメだよ。ずっと反省し続けなければダメ。でも、裏切られた方は、まあ関係ない。自分は自分。人は人です。
ここでの蝶々さんは死を選ぶけど、なにもピンカートンにあてつけたわけじゃない。愛した人が帰ってきてくれることに賭け、夢見て、それが破れた。あぁ、今後は生きている価値もなければ恥辱にまみれていたくもない、死のう、となったわけで、やっぱり恨んじゃいないわけです。そこがいい。
ピンカートンも「この後悔は一生僕を苦しめ続けるだろう」と嘆くしね。
皆さんは信頼しきった人に対し、裏切ったこと、裏切られたことがありますか?
僕は多分どっちもあると思います。
●歌劇『蝶々夫人』全曲 セラフィン&聖チェチーリア音楽院管、テバルディ、ベルゴンツィ、ほか(2CD)(HMVのオンライン価格で1,082円。なんかリンクが貼れなくなっちゃってる)

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CDはセラフィン(Tullio Serafin, 1878~1968)指揮、テバルディがタイトルロールを歌うものが最高で、僕にとって唯一無二だ。この作品では、有名なアリア「ある晴れた日に」よりも、第一幕最後の「愛の二重唱」のほうが絶対によい音楽なのだが、その美しさが、このCDは傑出している。
テバルディの歌唱も素晴らしいけれど、多分最大の功労者は指揮者セラフィン。歌手に歌わせに歌わせながら、楽器も鳴らしに鳴らすその芸当は、生粋のイタリアっ子、オペラ指揮のスペシャリストならではと思う。なんかね、ものすっごい感動なんですよ。ちょっとありえへんくらいの。
それから、CDを楽しむためには訳本も必要になるよね。国内盤だったら歌詞カードが付いてるけど、今は国内盤自体が全く出ていないようだし。
その場合は、音楽之友社などから対訳本が出ているので(あぁ、これもリンク貼れねぇ。HMVで買えます。ただし1,600円くらいする)そちらを併せて買ってください。
DVDで観たいという人もいるだろうし、もちろん反対はしないけど、でもやっぱり、オペラはCDで何回も繰り返して聴くのが本筋ですよ。DVDにはポネル演出、カラヤン指揮の、ものすっごくシュールで、それでいて酢昆布のようにやめられない魅力のあるものがあり、それ自体は超オススメなんだけれど、でも、まずはCDと訳本でお楽しみを。
そして、プラスアルファとしてこのDVDを買えば、同作で双璧と言われるセラフィンとカラヤンのものが揃うので、それもコレクションとして完璧になり、素晴らしいと思います。
それから、気に入ったオペラができて別盤を欲しくなったらハイライトにしておくのもお勧め。
いいところは全部入っていて、とてつもなく安かったりするからね。

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