『セッション』をtarと比べてみれば・・・ 2023/9/30 By Leave a Comment 音楽劇であるという以外に何の予備知識もなく観たのだが、恐ろしいモアハラ・パワハラ劇だった。 ジャズ・ドラマーを目指して音楽学校(NYのジュリアード音楽院がほぼ間違いなくモデル)に入学した男子が、スパルタのエリート育成教師に見いだされ、超前時代的しごきを受けながら、最後に教師が求めるレベルに到達する。 というとありふれた感じだが、その教育法たるや、まったく常軌を逸しており、人間的にも褒められるところがほとんど見えない。 実は彼のような「天才至上主義」は自分の中にも色濃くあって、ちょっとした正しさや優しさよりも、飛びぬけた天才が誕生するために少々のことは犠牲にしていってよい、というのはその通りだと日々思っている。 それにしてもレベルがヤバいのだ。ビンタはする、物は投げる、常に人格否定の罵倒をする。実際に、軍隊物の鬼軍曹がモデルなのだろう。いまどき・・・どころか、軍隊以外のほとんどの世界で、これほどの暴君は過去にはほぼいないだろうと思う。 疑問に思うのが、先日観た『TAR』との比較だ。いや、作品として比較する種類のものではない。そうでなく、TARでは「パワハラだ」というだけで、あっさりとあの深みを受け入れなかったレビュワーたちが、(もちろん同一人の書き込みでないにしろ)今度はほぼほぼ肯定に回っているところ。 そうなのか?このレベルだと、それこそ作品理解以前の問題だと思うが・・・いや、言い直そう。これでは作品の良し悪しに踏み込むために必要なリアリティを失ってしまっていると思うのだが。 質の悪いことに(笑)観ている間はこちらの方がtarよりもはるかにおもしろい。ここだろうね、エンタメのパラドックスは。 もう、やりすぎてテーマも何もぶっ飛んでしまうけれど最高の時間潰しというエンタメの基本を十全に満たしている作品と、さまざまな問題提議を品格高く示してくれる良作ながらエンタメ性にはだいぶ欠ける作品の優劣。若い頃なら後者を褒めるが、今の僕なら意外と前者を評価する傾向かな。 でもま、本作はやりすぎだろ。80点
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