邦画の頂点『七人の侍』 2023/4/20 By Leave a Comment 言わずと知れた黒澤明監督の代表作にして、「邦画史上の代表作」である。 そのアクションのすさまじさはまさに孤高。ある意味、現代においてさえナンバー1の地位を保っていると思う。それはあまりもの”リアリティ”において。 現代ならもっと劇的に作るだろう。寄り引きやスローモーション、そしてCGなどを駆使して。 ひとつには「できなかった」のであろう。技術的に、あるいはセンス的にも。 しかし、そのことが逆に圧倒的なリアリティを産み、むしろ後世に異彩を放っているのだから、何が幸いするかはわからないものである。 もちろん、リアリティは黒澤が進んで求めたものでもあろう。 戦国時代の田舎の集落が40人ほどの野武士集団に狙われる。 そこに待つものは強奪、凌辱、そして大量の死であり、百姓たちは対抗措置として「七人の侍(浪人)」を雇うわけだが、その主戦法が、1~2人ずつ(最後は10人近くになるが)引き込んで、竹槍の数でせん滅すしていくというもので、そのたびリアルに人馬が右往左往し、百姓集団がわっと群がっていくさまは、もう”本当にやっているだけ”としか見えない。 だって、馬がどう走るかなんて想像もつかないだろう。恐らく、馬自身が本当に恐怖していて、必死に走っている。そこを竹槍で付いたり刀で切りかかったり。もちろん適当なタイミングで転落するのだろうが、その後も馬はあらぬ方へ走っていくし、落馬した人間はそのまま這っていくように逃げていき、そこに百姓たちが追いすがる。 それをある程度引いたキャメラのままで撮っていくのだから、かなり広い面積でリアルでなければならない。いやもう、何回、何十回撮り直したのだろうと想像すると気が遠くなりそうが、もちろん並外れた情熱があったからだけでなく、日本が貧しい時代だからこそできたという幸運もあろう。 格闘シーン以外も隙が無い。 前半は冗長にすぎる場面もあるがそれもわずかで、全体としては無駄がないだけでなく、場面で雰囲気を変えるのがうまい。特にセクシーな場面など、あぁここで来るな、というタイミングで来るし、しかも女が力強いからあほうらしくならない。 特に気に入ったのが終盤でのブラックジョークだ。 最終決戦前夜に、侍の一人の美形若者と、百姓の女子が”できて”しまう。父親が怒り狂い、せっかく醸成された集団の一体感にはヒビが入った。決戦の朝、硬さもあって士気が上がらない中、リーダーのジジイ侍(志村喬)が男どもの前で小演説をぶつ。 「これから最後の戦いだ。頑張ろう!(若者に)お前も今日は存分に働けよ。なんせ、昨日からお前も一人前の男だからな」 どっとわく男衆。一番のタブーを武勇伝ネタにして笑いを取るというのは、男の間だけに許された芸当だ。 そして三船敏郎である。僕たちが知る彼はすっかり重厚なイメージであるが、実は、もっとニュートラルな”カメレオン的”と言ってもいい役者であったことが、本作でも知れる。 その肉体からあふれる活力とパンクさ! 代名詞である「鋭い眼光」以外でも、魅力があふれる人だったのだ。 88点は初見でないために低くなったが、すべての人に一度は観てもらいたい映画である。
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